Q&A

病気

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


雑草

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


土壌

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


生理

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


気象

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


栽培

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


害虫

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


肥料

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


管理、その他

フェアリーリング病はなぜ濃緑色のリングができるのですか?

フェアリーリング病菌が土壌中の有機物を分解して窒素・リン酸・カリウムなどの肥料成分を産出するため、病原菌が高密度で生息している部分において芝生育が良くなり濃緑色になります。また、コムラサキシメジでは2-アザヒポキサンチンという植物の生育を増進させる物質が確認されています。しかし、フェアリーリング病は芝を枯らす場合もあります。枯れる原因の多くは乾燥害によるものであり病原菌の菌糸が撥水性を有し、高密度に生息している場所で不透水層が形成されるためです。またチビホコリタケやヒダホコリタケでは根の細胞間隙から体内に侵入して表皮細胞を分離させる害を起こし、シバフタケでは芝に対して毒性のあるシアン化合物を産出していると言われています。
フェアリーリング病が発生すると芝の美観を損ね、時には枯れることがあるためゴルフプレー上重要な場所では殺菌剤による防除を行うと良いです。フェアリーリング病菌は円形に成長していきますが、大きくなってくると中心部では菌自身が出す老廃物や養分不足などにより衰退していきます。そのため菌が生息する場所は外側に広がっていく円の周辺となるため、殺菌剤を散布する際は濃緑色のリングや帯状になっている場所の前後に幅を持たせて散布すると良いでしょう。予防においては菌の種類によって生育を開始する温度が異なりますが、グリーンでも発生するホコリタケ類では15℃程度から生育を開始すると言われています。そのため3月下旬ごろから予防散布を始めると良いと考えます。


ベントグラスがスポット状に枯れました。これは病気でしょうか?

病気によるものとそうでないものの2種類が考えられます。
病気によるものであれば、数日様子を見ているとスポットが増加したり、スポットが大きくなったりします。病害診断で病気を特定しましょう。発生している時期からある程度、病気の種類の推測も可能です。スポット状に発生する病気として考えられるものにはダラースポット病、カッパースポット病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、フザリウム病、細菌病があります。適用のある殺菌剤を適宜散布しましょう。

病害ではないと診断された場合は以下のものが考えられます。
1.グリーンモアやブロワーなどから漏れ出たオイルやガソリン、グリスなどが芝生に落ちることで枯れます。ガソリンの場合ブロワーでは燃料キャップのゆるみや閉め忘れなどが原因で不規則に飛び散る形で現れ、グリーンモアでは刈り取りの方向に沿って列になります。グリスの場合モアのローラーで踏んでしまいスタンプのように被害個所を増やしてしまうこともあるため、グリスが落ちているのを確認した場合にはすぐに取り除くこと。
2.チョウ目害虫による食害痕や虫の死骸からでる体液によって芝が枯れることがあります。ノメイガやタマナヤガの幼虫が芝を食害し、円状あるいはボールマーク状に芝がなくなりスポット状に枯れたように見えます。食害が見られた場合、殺虫剤による防除を行いましょう。ただし、殺虫剤を使うと蟻のギ酸やガスを出すゴミムシの仲間などの死体によって芝が枯れることがあります。
3.グリーン周囲に粒肥を散布した際にグリーン内に入り、肥料焼けして枯れることがあります。グリーン周りで粒肥を散布した後にグリーン内に入ったものが無いかを確認しましょう。
4.ボールマークが修復されないままになるとスポット状に枯れます。グリーンフォークで修復をしましょう。
5.雑草が枯れた跡もスポット状に枯れて見えることがあります。雑草が大きくなる前に茎葉処理等の除草剤対応を行い、枯れた面積が小さくて済むようにしましょう。

いずれの場合でもスポット状に枯れた原因を取り除いた後は、薄目砂や肥料を散布して芝の回復を促進させると良いでしょう。また、回復の見込みがない場合には差替えや張替えで対処しましょう。


10月頃にベントグリーンにインターシードしたら11月下旬ごろから茶色のパッチが発生しました。日が経つにつれパッチが増加し、面積の拡大が見られたため病気だと思いますが、これは何の病気ですか?

紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)あるいはピシウム病だと考えられます。
●  紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)
紅色雪腐病(ミクロドキウムパッチ・フザリウムパッチ)の原因菌はMicrodochium nivaleであり、積雪が無い場合に発生するときにはミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという別名で呼びます。別名が2種類ある理由として昔の病原菌名がFusarium nivale でしたが、現在はMicrodochium nivaleに再分類されています。そのためフザリウムパッチの名で呼ばれていましたが、現在はミクロドキウムパッチと呼ぶのが正しいと考えます。種子感染によって病原菌が持ち込まれると考えられ、インターシードをしたグリーンや播種したナーセリーで発生が確認されています。パッチの大きさはゴルフボール大程度の大きさで発生することもありますが、多くの場合は直径が15㎝以上になります。パッチ全体が枯れる場合とリング状に症状が出る場合があります。パッチの色は外周部が赤褐色や濃茶色、黒褐色をしており、内部は淡褐色や白色をしています。
 対策:紅色雪腐病に適用がある殺菌剤が効果的であると考えますが、芝草に対するミクロドキウムパッチやフザリウムパッチという病名で殺菌剤の登録がないので、適用外使用という形になります。殺菌剤の使用方法については紅色雪腐病の適用通りに散布するべきと考えます。ただし低水量高濃度散布では薬害が出る可能性があるため、多水量低濃度で散布をするほうが良いでしょう。インターシードを行ったら発生するものと考えて、予防散布で発生を抑えるようにしてください。
以下の薬剤が紅色雪腐病に登録がある殺菌剤です。研究所やゴルフ場でいくつかの薬剤について発生後散布で効果の確認を行ったところ、ポリオキシン類やDMI剤で病気の進展を抑える効果がありました。



播種したナーセリーで11月下旬に発生したミクロドキウムパッチ


インターシードしたグリーンで12月に発生したミクロドキウムパッチ

  • ● ピシウム病
  •  ピシウム病には高温期に発生するタイプと低温期に発生するタイプがありますが、この時期の幼苗期に発生する場合には、低温期に発生するタイプが主な原因です。そのため夏場にピシウム病に対して殺菌剤を散布していたとしても、低温性ピシウムは関係なく発生します。ピシウム病は葉鞘部や根部に感染して芝を枯らし、症状が激しいときにはパッチ内部が裸地化します。幼苗期は病気に感染しやすく、苗を育てるために散水を多回数行っていることが原因で発生しやすいと考えられます。円形あるいは不定形のパッチを形成し、湿度が高いと病原菌は活性化します。パッチの色は淡褐色や稲わら色、葉の先端が赤色で葉鞘部は稲わら色になることがあります。
  • 対策:発生後散布では、芝が枯れてターフ面に穴あきのような状態になってしまうため、予防散布を行う必要があります。殺菌剤の低水量高濃度散布は薬害が出る可能性があるため、高水量低濃度散布をしましょう。治療散布ではサブデューマックス液剤が効果的だと考えます。以下の表はピシウム病の登録がある殺菌剤です。


ナーセリーで2月下旬に発生したピシウム病


殺菌剤の適用病害の中でヘルミントスポリウム葉枯病とカーブラリア葉枯病がありますが違う病気になりますか?

どちらもカーブラリア葉枯病を指しています。ヘルミントスポリウム属は様々な菌が一緒にされていた時の古い名称であり、近年になって6属(カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属・エクセロフィラム属・マリエリオッティア属・ヘルミントスポリウム属)に分けられました。芝生に対して病原性があるものは、カーブラリア属・バイポラリス属・ドレクスレラ属の3属です。
登録が古い殺菌剤ではヘルミントスポリウム葉枯病となっていますが、最近の殺菌剤ではカーブラリア葉枯病やドレクスレラ葉枯病で登録をとられています。適用病害がヘルミントスポリウム葉枯病で登録されている殺菌剤ではカーブラリア葉枯病で効果があるものが多いですが、バイポラリス葉枯病やドレクスレラ葉枯病には効果が無い場合があります。それぞれの葉枯病に登録がある殺菌剤であれば使用できます。


殺菌剤のローテーション散布の方法はどのようにしたらいいですか?

ローテーション散布の原則として、作用点が異なる剤を少なくとも3種類以上使用するようにしましょう。ローテーション散布を行う際に薬剤の選定の助けになるものとして以下のFRACコード表(日本農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.htmlより引用・抜粋)があります。耐性菌出現リスクが高い剤のみで組み合わせることは推奨されておらず、例えば7→M5→11→3→のように耐性菌出現リスクが低い多作用点接触活性薬剤(RACコードMのものなど)と組み合わせて使用するようにしましょう。 ラベルへのFRACコードの表示は製造メーカーの判断によって実施されているものであり、2017年前後から写真1のようにラベルへの記載がされるようになったようです。




ダラースポット病が出て殺菌剤を散布したが、枯れたところがなかなか治らない。どうしてですか?薬剤耐性菌を疑ったほうがいいでしょうか?

病斑が出た後に薬剤散布を行った場合、その薬剤の効果が出ているのかを確かめることが必要です。散布7~10日後にスポットの周縁部が赤褐色のままである、またはスポットの数の増加、拡大などが見られる場合、殺菌剤が効いていない可能性があります。その場合は、病害の進行を止めるために作用点が異なる殺菌剤を使用することをお勧めします。同じ殺菌剤を何度も使用していると、徐々に病原菌に対する効果が薄くなり、最後には全く効かなくなる耐性菌となってしまいます。耐性菌を出さないためにも、作用点が異なる数種類の殺菌剤をローテーション散布し、予防剤と治療剤の使い分けをしていくことをお勧めします。
  さらに、ダラースポット病は春と秋の2季に発生します。春に発生するときは、芝の生育が盛んになっていく時期であるため、地上部が枯れていたとしても芝が元に戻りやすいです。しかし、晩秋に発生するときは、日を追うごとに気温が低下し、芝の生育が衰えていきます。その結果、ダラースポット病によって地上部が枯れてしまうと翌春までスポットが残ってしまいます。ダラースポット病は発生時期が分かりやすいので、発生前の予防散布を心掛けるようにしましょう。


3,4年前からラージパッチが発生し出し、昨年は多発しました。そこで、今春には予防処理をしっかりやり、再発してきた所には治療散布をして梅雨までは何とか抑えてきました。秋の予防処理も早めにきっちりとしましたが、降雨が続き幾分気温が低めの10月に多発してしまいました。どうしてこうなったのでしょうか。

これには以下のような原因が考えられます。①殺菌剤の残効切れが考えられます。②サッチなどの有機物がたまっていると、散布した薬剤が吸着され、しっかりやった筈の薬剤の効果が低下したり不安定になったりします。また、たまった有機物は、排水不良の原因にもなり発病しやすくなります。③暖地型芝草にとって秋の多雨、日照不足、低くめの気温、排水不良などが続くと、耐病性が低下します。④ラージパッチにゾイシアディクラインなどとの複合病も考えられます。これらの内のどれが真の原因か、そのほかに原因はないのかについては、グリーンキーパーと専門家がじっくり話合ったり調査をしたりするとよいと思います。
 グリーンキーパーの世代交代時に管理記録、知識や技術が十分継承されていない場合もあるよで、若い世代はラージパッチの怖さを知らないと思います。そこで、ラージパッチには発生しやすい場所があること、土壌中における病原菌の消長などを学び直す必要があります。また、新剤が出まわっており、この選択や残効性、薬量、水量、耐雨性などの特性をナーセリーで試し、新しい殺菌剤を上手に使って欲しいものです。
 もう一度、ラージパッチ対策を見直す時期に来ているのではないでしょうか。


グリーンの病原菌は、気温が何度くらいになったら動き出しますか。また、その時期の病害管理として何に注意したらよろしいでしょうか。

病原菌、ここでは数多くの病気を起こすかびのことを取り上げます。かびは目に見えないだけで立派な生物の仲間です。気温についても、ベントグラス同様月平均気温が10℃前後の 3 月下旬ともなれば、休眠状態で冬越しをしていた厚膜の菌糸や胞子は動き出します。厚膜の菌糸や胞子の膜が周りの水分を吸い、少し膨らんで菌糸伸長や胞子発芽の準備をします。この頃以降になると、ベントグラスは発根や分げつが盛んになり、古い組織が剥がれ落ちて一般の土壌細菌の餌になって分解され、糖やアミノ酸類が土壌中に放出されます。それを餌にして病原菌はさらに菌糸が芝草に誘引されるように伸び、感染に至るのです。このような春先のグリーンの床土の中での動きを図示すると、次のようになります。



そこで、この時期に注意すべき病害管理は次の3点に絞られます。① まず 4、5 月の競技日程を調べること、② つぎに毎年この時期にどこのグリーンで問題になる病気が発生するか、過去の記録で確認すること、③ 最後に、その病害に有効な薬剤等の在庫量をチェックしてください。春先には、上の絵のようなことが起こっていて、特定の時期の特定のグリーンでは決まった病気が出やすいので、①~③の病害管理が大切になるのです。


病害の診断をしていて、病気がうまく治らなかった経験がありますか。その場合には、どういう所に原因があったと思いますか。

診断していて、その後の対応がうまく取れず、治りが悪くコース管理に迷惑をかけた例が最近ありました。その原因は、診断中にコース管理との連絡が密に取れなかったことにあると痛感しました。
 この3月中旬、パッティンググリーン2面の病害サンプルが送られてきました。僅かな数の周年性のピシウム病菌が観察され、これまでにこの菌はそんなに大きな被害を出さないことが分かっていました。その上、非病原性のピシウムが共存していましたので、このピシウム病には薬剤散布をせず、経過観察をしてもらうことにしました。
 所が、4月中旬にこのピシウム病による被害が出始め、さらに、各ホールのグリーンでも本病が出だしたという知らせを受けました。そこで、18ホールすべてに薬剤散布をしてもらい、無事に終わりました。
 このように、本病の対応に失敗した3~4月は、ちょうど更新作業の時期であることを十分に考えていませんでした。また、3月に出た本病により薄くなった所に播種されていたことも、知りませんでした。播種された所を中心にピシウム病が多発していたことは、後から知りました。
 3月から4月にかけてせめて電話連絡でもしておれば、このような診断後の対応ミスは避けられたと悔やんでいます。病害診断業務というものは、症状を治してはじめて終了するものだと思います。診断は、コース管理と研究所が互いに連絡を取り合いながら終わるものだということが分かりました。


ベントグリーンで見られる芝草の病気の中で、防除困難な病気は何ですか。その対応策も教えてください。

その病気は、登録農薬が少なくて治りにくいピシウム病と細菌病でしょう。これら2つの病気が防除困難なものになっているのは、①地上部に症状が現れる頃には、病原菌は土壌中でかなりな数に増えていてその周りに広く散らばっているので、防除適期を逃すことが多いこと、②薬剤散布をしても、土壌中を水と共に流亡したり、土壌中の有機物に吸着されたりして薬剤が病原菌にとどかないことが多く、効果があらわれにくいからです。
 このように防除困難な病気には、以下のような対策が最善です。①病気が出ないように芝生を健全に育てるため、排水をよくしバランスの取れた施肥をすること、②ピシウム病も細菌病も、一度発病すると病原菌がその土壌に残るという特徴がありますので病気を正しく診断し、早めに薬剤散布をすることです。


芝生病害の分野で顕微鏡を使うと、何が見えて何が分かるのでしょうか?

顕微鏡により、もちろん発病した芝草の葉の上などに病原菌(かびや細菌)が見えます。一種類の病原菌が見えればそれによる病気だと言え、適切な対応-例えば過剰散水を避け殺菌剤の散布をします。しかし、葉、地際部、根などを調べても病原菌が見つからなければ、生理障害と考え薬剤散布をする必要はありません。このように、薬剤の要否が顕微鏡観察により決まり、ここで顕微鏡の役割は一応終わります。
 しかし、顕微鏡を使い慣れてきて、芝草に中に入っている病原菌の形態を詳しく観察したり、それらの数を数えたりしていると、新しいことが色々明らかになってきます。まず病気の勢い(病勢)が分かり、例えば、いつ、治療効果が高い殺菌剤で対応すべきかまで判明します。処理後の薬剤の効果を知ることができますし、芝草の病気からの回復状況も分かってきます。もちろん、複数の病原菌によって起こる防除困難な複合病も見つけられます。
 顕微鏡を介してグリーンキーパーをはじめとする芝生管理技術者と病気の専門家の交流が深まれば、芝生管理技術者には発病や病気からの回復状況の舞台裏が手に取るように分かりますし、病気の専門家には現場における病気の動きや生理障害の発生状況を目の当たりにすることができます。このようにして、顕微鏡はお互いの資質向上に役立ちます。この連係プレーが長く続くと、やがて病気の発生予測や予防技術の発見につながります。異常気象下で思わぬ病気が発生しても、顕微鏡の威力により大きな被害をこうむらなくて済むのです。


日本芝で発生している病害はベントグリーンにも入ってくるのですか?

病原菌によって発病できる草種は異なり、多くの草種に発病できるものもあれば、特定の草種にしか発病できないものもあります。そのため一律に日本芝の病害がベントグリーン内に入ってくるかは述べる事ができませんので、以下にベントグリーンに入ってくる病気、入らない病気の一例を挙げましたので参考にしてください。
 日本芝で発生している病害がベントグリーンに伝染する事例としてはダラースポット病が挙げられます。ダラースポット病は同一の菌が多くの草種(ベントグラス、コウライシバ、ノシバ、ティフトン等)に発病します。このためグリーン周りの日本芝で発生しているダラースポット病がベントグリーン内に入ってくる可能性があります。ベントグリーンでダラースポット病に殺菌剤を撒く場合には、外周部の日本芝にダラースポット病が発生しているのであれば広めに日本芝の部分まで殺菌剤を散布する事が必要です。
 日本芝で発生していてもベントグリーンに伝染する心配があまりないものとしては、炭疽病や葉腐病(ラージパッチ)があります。炭疽病は被害が大きくなることは少ないですが、日本芝でも発生します。しかし、ベントグラスで発生する炭疽病と日本芝で発生する炭疽病は病原菌が異なり、お互いには発病しません。日本芝のラージパッチとベントグラスのブラウンパッチは共に葉腐病と呼ばれていますが、病原菌は異なり、お互いに発病する事はあまり無いようです。


赤焼病は5月のベントグリーンではまだ発生しませんが、梅雨期にはそろそろ出はじめます。このように、赤焼病には出る時期があるということですが、それはどのような理由によるのでしょうか。

5月の平均気温は20℃以下で、高温性の赤焼病菌には低過ぎて増殖できません。しかし、寒地型のベントグラスには好適で、5月から成長期に入って行きます。その上、雨が少なめで日照時間が長くなり、ベントグラスは強く育つのです。このように、5月は赤焼病菌にとっては不良環境で、ベントグラスには好条件なのです。これが、赤焼病が出ない理由です。
一方、平均気温が20℃を越える梅雨に入っても、ベントグラスは成長を続け、根からは老廃物がにじみ出たり古い組織がはげ落ちてきます。赤焼病菌の活動は気温が上昇するにつれ活発になり、根の周りの有機物をとることで菌密度を一層高め、感染をはじめます。
さらに気温が平均26℃を超える梅雨の後半には、真夏日が増えてベントグラスは急速に衰退に向かいます。密度を高めた赤焼病菌は高温多湿下にあるとさらに活動的になり、弱ってきたベントグラスの根や地際から盛んに感染します。侵入した菌は細胞や組織を溶かして崩壊させ、ついに目でも見える水浸状の病斑をつくります。これが、梅雨期から赤焼病が出はじめる理由なのです。


どういう環境条件下で、芝草の病気は出やすいですか。 (H.25.1)

芝草病が出やすい環境条件は、便宜上、自然的な条件と人為的な条件に分けて考えるとよいと思います。勿論、これらの条件は互に絡み合って発病に関係しています。
 まず、発病しやすい自然的環境条件についてですが、芝草と病原菌の両方に影響する最も重要なものが温度、また、芝草だけに影響を及ぼす日照不足があります。ターフ内や葉面の湿度は病原菌の胞子形成や侵入を促進します。さらに、降雨は病原菌の胞子の離脱や分散を助けるほか、植物面をぬらして飛散後の植物体への侵入を容易にします。罹病葉の表面から流れ落ちた雨水で、胞子が健全葉に運ばれます。風は炭疽病菌や犬の足跡の胞子が伝搬するのに大きく関与しています。強風は葉どうしが激しく擦れ合って傷の原因になり、細菌病などでは発病を促します。しかし、適度な風は葉面の露を蒸発させたりターフ面の湿度を低くしたりするので、却って胞子形成や芝草への侵入を抑制し、発病を抑えたりしているのです。
 発病しやすい人為的環境についてですが、目砂のすり込み、軸刈りなど日常の管理作業による傷や栄養の過不足でそれぞれ罹りやすい病気があります。また、芝密度が高過ぎると発病しやすく、散水は感染・発病に影響すると考えられています。


ベントグリーンに出る病気のような黄色いスポットは何ですか?

ベントグリーンに発生する黄色いスポットは主にイエロータフト(黄化萎縮病)とイエロースポットの2種類が考えられます。
発生時期:イエロータフトは、主に春と晩秋(時には夏場にも見られることもある)に発生するのに対し、イエロースポットは夏頃に多く発生します。
症状:どちらもベントグリーン上でよく似た黄色いスポットを呈しますが、イエロータフトは芝草個体そのものの地上部が叢生(芽数の異常増加)し、根の数が異常に少なく、場合によっては1本になっていることもあり、引っ張ると株が簡単に抜けやすくなっています。一方、イエロースポットは葉が黄色くなるだけで、叢生や根の減少は見られません。
原因:当初、イエロースポットはピシウム菌が原因とされピシウム性黄化症と呼ばれていましたが、現在のところ病原菌は不明です。イエロータフトはSclerophthoraというピシウム菌に近い菌によって発病しています。
また、両病害ともベントグリーンに大きな被害を与えることはなく実害が少ないので、自然回復を待つ場合が多いようです。両病害とも年次変動が大きいことも共通の特徴です。また、イエロータフトはコウライシバにも発生します。


イエロータフト(ベントグラス)

イエロータフトにより減少した根(ベントグラス)

イエロータフト(コウライシバ)

イエロータフトにより減少した根(コウライシバ)

イエロースポット(ベントグラス)


何時も、ルーぺを持ってコースに出ることにしています。病原菌は何倍くらいで見えますか。

コウライシバ立枯病(ゾイシアデクライン)を例に取って説明しましよう。本病が多発している所では、病原菌は葉から根にまで見られますが、葉では厚くてよく見られません。地際葉鞘部が観察するのによいでしょう。
 材料を軽く水で洗ってから、汚れて黒変した地際葉鞘の一番外側の皮(葉鞘)を一枚はぎ取ると、薄い黄色みを帯びた葉鞘が中から現れてきます。そこに、肉眼でも黒い鉄粉がかかったような所が見えます。
 この部位を50倍くらいのルーぺで見ると、やっと手のひら状のものが見えてきます。これは、菌足(きんそく)と呼ばれていて、ゾイシアデクラインを起こす病原菌の特徴です。これが立枯れ症状のある芝草に見えれば、ゾイシアデクラインにかかっていると判断してよいと思います。
 菌足の観察に慣れるまでは、その都度、性能がよりよい直立型顕微鏡(100倍)や実体顕微鏡(50倍以上)で菌足の正確な形態をつかんでおくとよいと思います。
 なお、本件については、当研究所発行の「ターフニュース」No.114(2012-Jan):18ぺージの「ルーぺの世界で病原菌が見える!」を読んでいただくと、ルーぺや顕微鏡の倍率で撮影した写真も付いていますので、参考になると思います。


冬場にグリーンで赤っぽいもやもやとしたものがでています。かさ枯病と考えていいのでしょうか?  かさ枯病であればどのように対処したらよいでしょうか?

一概にかさ枯病と断定するのは難しいと思います。以前にかさ枯病と診断された事があり、カラーなどの葉一枚一枚が大きい個所で典型的な病斑(写真参照)が多く観察される場合はかさ枯病といっても良いかもしれません。その症状が病原菌によるものでない可能性(生理障害や薬害やアントシアン斑など)もあります。また、冬に発生し、かさ枯病以外で赤色を呈する病気は紅色雪腐病やフザリウムによるものがあります。これらの病気は比較的はっきりとしたパッチを形成するので判断はしやすいと思いまが、判断が難しい場合は研究所にご連絡ください。
 かさ枯病の対処法としては、①急激に進行する場合は抗生物質剤(アグリマイシン-100)を散布する必要があります。しかし、抗生物質剤は過度に連用すると耐性菌が出現する危険性もあります。②かさ枯病は主に冬季なので、進行が緩やかな場合は銅剤などによって対処して下さい。③症状が厳しい場合は、次年度から排水性、日当たりの改善といった耕種的防除や晩秋からの銅剤の使用など予防的な対策が効果的です。



夏になるとグリーンカラーにドライスポットがよく発生します。水はかかっていると思いますが、何故発生するのですか、対策はあるのですか?

グリーンカラーにドライスポットなどの乾燥害が発生する原因には次のようなことが考えられます。

 ① スプリンクラー散水は、グリーンカラーで散水量が少なくなる傾向がある
 グリーンでのスプリンクラー散水分布は、どうしてもむらになりやすく、中央部に散水量が多くなり、外周部で少なくなりやすい(散水時に容器を置いておくとよく分かる)。
 (対策)スプリンクラーのヘッド位置や角度、増設の必要性を見直す。それができない場合は、手散水で補うことで均一散水に努める。

 ② グリーンカラーの土壌水分は、その外側の土が水分を奪い取りやすく乾燥しやすい
 土壌水分は毛管力の強い方に引っ張られる。カラーの境界が土と砂に分かれる場合、水は土の方に引かれ、砂はより乾きやすくなる。
 (対策)カラーの境界部にしきり板を埋め込み、水のやりとりを遮断する。

 ③ ドライスポットが強く発生している
 すでにドライスポット現象が発生していると、いくら散水しても水は保水されなく、乾燥したままである。
 (対策)浸透剤を処理して、砂粒子表面の撥水力を弱める。浸透剤は、ドライスポットが発生してからよりか、発生する前から予防的に、かつ定期的に処理していく方が効果的である。

 ④ グリーンカラーの根生育が弱いと十分に吸水できていない
 グリーン出入り口など踏圧が多くかかっている所は、根の水吸収能力が劣っており、直ぐに乾燥しやすい。
 (対策)踏圧を分散させ、夏を迎えるまでにコアリングなどで発根状態を改善しておく。この他、病害発生で根が弱る場合もあるので病害防除に努める。

 原因が一つだけでなく複雑に関係していることも考えられるので、一つずつ解決していき、グリーンカラーの健全な芝生育を図ってください。


細菌病の話をあまり聞かなくなりましたが、あまり発生していないのでしょうか?

細菌病(かさ枯病、葉枯細菌病)の発生自体は減少していないのですが、細菌病による被害は減少しているように思われます。
 これは細菌病に対する認識が強まったことや実際に経験したことにより、発病の初期に薬剤対応等の対応を取るようになったため、細菌病が拡大し深刻な被害を与えるケースが減少したためと考えられます。また細菌病は、一度発生すると持病のように季節になると毎年発生することが多いのですが、発病時期に合わせて耕種的対応、薬剤の予防散布など予防対策をとるゴルフ場が増えたことも要因の1つであると考えます。また、この2年間で3剤(ドウグリン、グリーンドクター、アグリマイシン-100)が細菌病に対して登録が取れ、薬剤対応しやすくなったことも一因としてあげられます。
 しかしながら、細菌病は診断の難しい病気の1つです。紛らわしい病気が発生し判断に困る場合は当研究所に連絡してください。その症状が細菌病によるものか、その他病害、整理障害によるものかを判断することで、より的確な防除の助けになるものと考えます。


赤焼病のローテーション散布について教えてください。

薬剤のローテーション散布は同じ薬剤の連用、多回数の使用を避け、耐性菌の出現を防ぐためのものです。以下の点に注意する必要があります。

 一般的に
・耐性のつきやすい有効成分の薬剤を連用しない(商品名が異なっていても同じ有効成分のものがある)。
・同一作用点の薬剤の連用をなるべく避ける。
・薬剤の種類によって耐性のつきやすさに差があることを知り、耐性のつきやすい剤の年間の使用回数を抑える。

 赤焼病では
・メタラキシル剤は赤焼病に卓効を示すが耐性菌の出現リスクが比較的高いので切り札としてとって置く。年3回以内の使用が望ましい。

  下表に現在赤焼病に登録のある剤を作用点別にまとめると共に、一般的に耐性のつきやすいとされている成分には太字で表示した。



毎年春先には、芝生の病気についての問い合わせが多い、と聞いていますが-----?。 どういう病気が多いのですか? これらの病気に対して、現場では適切な対応が取れているのでしょうか? では、どう対応したらよろしいのでしょうか?

そうです。4月には急増します。 細菌病、ピシウム病、不明症状(どういう病気かよく分からないが、明瞭な症状が出ていて、病気のように見えるもの)です。この3つがここ6年間連続トップです。 あまり取れていません。困ったことに、これらの病気に対して誤診率は最も高いのです。 4月初めから、まず第一に、例え芝生の状態がよくても、毎日、注意深く観察して下さい。第二には、何か異常が出はじめたら早めに専門家に相談し、病名をはっきりさせることです。最後には、色々な人の意見を聞くのも大切ですが、自らよく考えて対応策を練ることです。


晩秋から初冬にかけて細菌病が出たと診断されました。薬剤散布を2回行なってやっと病気は止まりました。しかし、なかなかベントグラスが回復してきません。 どうしたらよろしいでしょうか。

この時期は、ベントグラスの分げつや新根の伸長も盛んですが、地上部の成長はそれほどでもありません。それで、芝の回復が遅いと感じるのでしょう。この場合、炭疽病菌が絡んでいたり、病原力が弱い葉枯細菌病菌やピシウム病菌などが増えていることがあります。これらの病原菌は各種の競技会などで芝草が弱った時に2次寄生菌として活動することもあります。したがって、細菌病に対する2回目の薬剤散布の後、念のためにもう1回、これらの菌に有効な抗菌スペクトルが広い剤を液肥や各種の活性剤とともに散布しておくと、芝草の病気からの回復が早かったという事例があります。是非、お試し下さい。成果の良否にかかわらず、一報下されば幸いです。


思わぬ寒波・大雪の来襲で雪腐病が心配!

急にやって来た根雪の前に、昨年末には雪腐病対策がとれずに終わってしまったというコースがたくさんありました。根雪の期間が40日以上にもなると、雪腐病が出ると言います。病原菌の種類によっては、根雪にならない地域でも発病します。このような訳で、この春の融雪時までに今からしっかり雪腐病に対する心積もりをしておきたい、という問い合わせが昨年暮れから相次ぎました。
 この所、気温の一時的な上昇や多量の雨があって、降り積もった雪が大分溶けたり消えたりしていますが、冬はこれからが本番です。もし可能なら、この時期を逃さずに薬剤散布をぜひ実施してみて下さい。今春の雪腐病の発生はかなり抑えられるはずです。薬剤の選択、散布方法などについては、研究所(第1研究室)にお問い合わせ下さい。
 なお、春先に気温が上がり雪がゆるみはじめる頃の対策については、2月発行予定のGREEN LETTERをお読みください。


細菌病が発生した時、登録農薬がありません。 どうしたらよいでしょう?

取りあえず、正しい診断と緊急対応が求められます。
この診断には やや専門的な技術が必要です。
緊急対応も、いくつかの方法を組み合わせるいわゆる総合的な方法で行います。

詳しくは、研究所にお問い合わせください。
   診断法:ターフニュース№83:25-28(2002 -Jan)
       同誌     №84:20-24(2002-Apr)
   その他:ゴルフ場セミナー (2005)7月号:166-167


すべての芝生の病原菌で耐性は出現しますか?

どの病原菌においても耐性菌が出現する可能性はありますが、病原菌によってその可能性の大小に大きな差が見られます。
最も耐性菌が出現しやすいのは細菌病菌(葉枯細菌病菌、かさ枯病菌など)で、次いで葉枯病菌(カーブラリア菌、バイポラリス菌など)、
炭疽病菌などが続きます。
基本的には、増殖のスピードが速いもの、胞子などを作り一度に多量増殖するものは耐性菌が出現しやすい傾向にあります。
細菌はその増殖スピードが桁違いに速いことから、最も耐性菌が出現しやすい病原菌です。
一方、リゾクトニア病菌(ラージパッチ菌、ブラウンパッチ菌など)や立枯病菌(ゾイシアデクライン菌)は
胞子を作ることは稀で増殖のスピードも遅く、耐性菌が出現する可能性は極めて低いのです。
下図に芝生に発生する病原菌の耐性化しやすさをおおまかにまとめましたので、参考にしてください。



春はげ症、雪腐病、ゾイシアデクライン、ネクロティックリングスポット病などに対し、秋の薬剤散布が有効なのは何故でしょうか。

これらの病原菌は比較的低温性で、秋になると増殖力が高まり、晩秋から初冬まで菌密度が増えていきます。一方、秋が深まると、暖地型芝草は休眠に向かって生育量が落ちていき、寒地型芝草でも、もはや春の勢いはありません。このように、秋には両方の芝草とも病原菌の感染に対して抵抗力は落ちてきていますが、逆に病原菌の密度は高まっているのです。抵抗力が弱まった芝草に菌密度が高くなった病原菌が出合えば感染が起こります。この感染の初期に正しい薬剤を散布すれば、病原菌の密度が低下して感染が抑えられるわけで、その結果、秋の薬剤散布が有効となるのです。


グリーンがリング状に焼けています。乾燥害とフェアリーリング病の見分け方はありますか?

乾燥害は、初期症状では葉が巻き黒ずみます。時間が経つにつれ白みを帯び、周囲の芝生面よりも落ち込み最後には芝が枯れ裸地になります。基本的には不定形のパッチ状に現れますが、リング状の症状でも現れることがあります。 フェアリーリング病では、濃緑色のリングを形成することが多いです。また、梅雨時期などで雨が降り続く時にリングの外縁部にはきのこが生えてくることがあり、高温期には乾燥してリング状またはリングの内側が焼けます。リングの内側ではフェアリーリング病の担子菌類が高い密度で存在しているため、ホールカップなどで掘り取るときのこの臭いがします。




リング状に現れた乾燥害  

乾燥害の初期症状

濃緑色のリングを形成したフェアリーリング病

褐色のリングを形成したフェアリーリング病

きのこが発生しているフェアリーリング病(シバフタケ)

きのこが発生しているフェアリーリング病


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