雑草DB

芝地の雑草の見分け方と防除 (7)


-スズメノヒエの仲間-

<はじめに>
今回はイネ科のスズメノヒエ(Pasupalum)属の仲間についてみる。ヒエに似た在来の草にスズメノヒエの名前がついた。人間が食用にしている“稗(ひえ)”に比べて、ずっと小さいので“雀(すずめ)”がつけられた。シマスズメノヒエ(島雀の稗)は、1915年に、小笠原の島で初めて発見されたために“島(しま)”の名がつく。戦後急に多くなり、関東地方以南で雑草化。ゴルフ場でも難防除雑草となっている。アメリカスズメノヒエは南アメリカ原産で、バヒアグラスの名で熱帯圏を中心に牧草や芝生に使用されている。

<共通点>
稈頂に花序軸を何本かつけ、その片側に小穂を2(又は4) 列に密生する。めしべの柱頭は黒紫色で目立つ。多年生で、いずれも丈夫な地下茎を持つ。

<見分け方>
茎葉の毛の生え方、花序の枝のつき方、小穂のつき方、葯の色、小穂の毛の生え方などで区別できる。
下線【_】は見分け方の重要点を示す。



日本語名 シマスズメノヒエ
英語名 Paspalum dilatatum Poir.
草丈 40~120cm
鞘口には長い毛と葉舌がある。
花序 枝は長さ7~10cmで3~8本で広く横に開き、
うなだれる。枝の付け根に毛が生える。
小穂 花序軸の下面に3~4列つく。
広卵形で縁に白色の長毛が目立つ。
葯も黒紫色。
花期 8月~10月
地下茎 株元に頑丈な地下茎ができる。
その他 南アメリカ原産帰化植物。
乳牛用の牧草に適しダリス・グラスと呼ばれる。


日本語名 アメリカスズメノヒエ
英語名 Paspalum notatum. Flügge
草丈 20~60cm
葉は光沢があって、
葉身中央脈に沿って軽く2つ折りになって
基部は茎を抱く。葉舌は不明。
花序 枝は通常V字状2股(時として3本形成)。
小穂 長さ3mmほどの小穂を2列に密につける。
無毛。
葯も黒紫色。
花期 7月~9月
地下茎 古い葉鞘基部で覆われた太い地下茎あって根を密生し、
地表付近を横に這う。
その他 熱帯アメリカ原産帰化植物。
バヒア・グラスと呼ばれる牧草。

<その他の類似雑草>
スズメノヒエPaspalum thunbergii Kunth.:在来種でシマスズメノヒエより全形がやや小形葉や葉鞘全体に軟毛があるが、小穂には毛がない小穂は2列で先はやや丸みがある、葯が黄色などの点でシマスズメノヒエと異なる。

キシュウスズメノヒエPaspalum distichum Linn.: 1924年に和歌山県で発見され、キシュウスズメノヒエ(紀州雀の稗)の名がついた。水湿地に群落を形成。アメリカスズメノヒエと同じく花序の枝は通常V字状2股であるが、長さは3~5cmと短い。小穂は穂軸に2列つく。水田の難防除雑草の一つ。茎は泥の表面、浅い地中を横に伸びる。水域では水中を伸びて浮き芝状の群落を形成する。節から発根する。

タチスズメノヒエPaspalum urvillei Steud.:大きな株を形成して稈を出し、高さ1.5mほどになる。10~20本の枝のある穂をつけ、小穂には白色長毛が密生し、枝に2~3列つく。柱頭は黒色、葯は黄白色

ヤマスズメノヒエLuzula multiflora:名前はスズメノヒエだが、スズメノヤリの仲間。

<発生生態と防除>
シマスズメノヒエはおそらく法面緑化などに伴って分布を広げたものと思われるが、路傍やあぜ道など、あまり乾燥しない場所によく生育している。アメリカスズメノヒエは牧草として栽培されていたので、各地に帰化している。やせ地に強く、路傍・堤防法面・乾燥する草地などで群落を形成。共に太い根茎ができ引き抜けない。

キシュウスズメノヒエの茎は、水分含量が10%以下まで低下しないと完全に枯死しないので、草刈後に放置しない。

スズメノヒエがコースに発生すると防除は極めて困難となる。除草剤による防除は難しく、特に年数が経ち大型化したものでは効果が低い。大型化したものは地下茎まで掘り取り除去をする。また、ラウンドアップを芝に付着しないようにスズメノヒエのみに塗布処理する方法も考えられるが、薬害の出る可能性が高い。

いずれの方法も発生数が増えれば手間のかかる作業となる。春には種子から発生してくるものもあるので、イネ科対象の土壌処理除草剤を使用し、拡大を防ぐことも重要である。


シマスズメノヒエ


芝生内に点在する株

花序の枝は長さ7~10cmで3~8本で広く横に開き、うなだれる。枝の付け根に毛が生える。

小穂の縁に長い毛が生える。葯も黒紫色

花序の枝に4列小穂がつく

株元に頑丈な地下茎ができる。


アメリカスズメノヒエ


花序の枝は通常V字状二股

葉は光沢があって、葉身中央脈に沿って軽く2つ折りになって基部は茎を抱く。

小穂の縁に毛がない

花序の枝には小穂が2列つく

古い葉鞘基部で覆われた太い根茎あって根を密生

古い葉鞘基部を剥いだところ


2種の比較


花序 左:アメリカスズメノヒエ 右:シマスズメノヒエ

小穂 左:アメリカスズメノヒエ 右:シマスズメノヒエ

小穂 左:アメリカスズメノヒエ 右:シマスズメノヒエ

果実 左:アメリカスズメノヒエ 右:シマスズメノヒエ

果実 左:アメリカスズメノヒエ 右:シマスズメノヒエ



<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社)
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農業教育協会)
廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン)
牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館)
浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会)
大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅰ,Ⅱ(1967,保育社)など
大井次三郎著:日本植物誌 顕花篇(1978,至文堂)
林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
長田武正著:野草図鑑③すすきの巻き,④たんぽぽの巻(1984,保育社)
浅野貞夫著:浅野貞夫 日本植物生態図鑑(2005,全国農村教育協会)
清水建美編:日本の帰化植物(2003,平凡社)

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