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芝地の雑草の見分け方と防除 (15)


-コケ(蘚苔類)の仲間-

<はじめに>
コケ植物はスギゴケで代表される蘚類、ゼニゴケの仲間の苔類、それにツノゴケ類の3群(網)に分類される。
グリーンで問題になるギンゴケはハリガネゴケ科(Bryaceae)の蘚類である。ラフではハイゴケ科(Hypnaceae)の蘚類であるハイゴケなどが見られる。

<共通点>
植物体が葉状体ではなく、茎葉体である。仮根は多細胞で分枝する。葉は細長く尖り、深裂せず、中肋がある。蒴さく柄へいはかたく丈夫。

<見分け方>
茎が直立するか、地表を這うか、分枝するか。葉の形、つき方、中肋の入り方。蒴さくの形、つき方、柄の色などで見分ける。

<発生生態>
ギンゴケは春と秋にできた胞子が風などで運ばれ、胞子が発芽すると、緑色の原糸体をつくる。原糸体のおのおのの糸は、肉眼では見えないくらい細い。原糸体の上に芽が分化し、この芽が成長して、茎に緑の葉をつけた茎葉体ができる。この植物体の上に有性生殖器官である造精器と造卵器ができて、その中に配偶子である卵と精子ができるので配偶体と呼ばれる。配偶体の上の卵と精子が受精して、胞子体ができる。胞子体の先端部に蒴さくができ、その中に胞子ができる。

胞子によって繁殖するほかに、配偶体上に無性芽ができ、これからも新しいコケ植物ができる。コケは水分を吸う根を欠き、基物に付着するための仮根を持つ。グリーンは刈り込むので、胞子による繁殖よりも無性芽による繁殖が主である。葉腋ようえきにできた無性芽は水滴によっても容易に剥がれ落ち、水で流れ広がり、そこで着生して、降雨や散水による水分をサッチやターフ層が含み、その蒸発による湿気を植物体表面から吸収しながら盛んに生育、繁殖しているものと考えられる。盛り上がったコケを刈り取った植物体の一部からも繁殖できる。

<防除法>
グリーン内でコロニー状のコケが目立つようになるときは、既に密度が高くなっている。密度の高いコケに対してコケ用の除草剤を処理しても一回処理では十分な効果が得られないことがある。コケの再生程度を観察し、回復する前に再処理を行うことが必要となる。除草剤処理の注意点として、コケは見る角度によって白く見えたり緑に見えたりするので散布しながらコケを探していると見落としてしまうものが出てくる。処理を行う前にティーやボールマークなどで目印を付けておくと見落としは少なくなる。点在するコケに対して部分的に茎葉処理剤の処理を行うことがあるが、薬剤を落とし過ぎて薬害の出るケースが見られる。芝生に安全性の高い除草剤であっても投下薬量があまりに多すぎると芝生に薬害が出ることもあるので、スポット処理を行う時には散布量に十分気をつける必要がある。

冬期に除草剤処理をしても、コケが枯れた部分は裸地として残り、春には再び発生してくることがある。芝生の活性が高くなる3~4月頃に処理を行い、コケの密度が低下した所を芝生で覆うようにすれば再生はしにくいと思われる。ただし5月以降で温度が高くなると芝生に薬害が出る除草剤もあるので、時期と温度、除草剤の選択には注意する。

コケに対して登録のある除草剤はキレダー水和剤、タスクDF、芝用エコパートフロアブル、ドウグリン水和剤、キノンドー80水和剤がある。使用方法については、キレダー水和剤は冬期の使用に限られ、ドウグリン水和剤、キノンドーは銅剤であるので、府県によっては使用できないので注意する。

<参考文献>
長田武正著:こけの世界(1974,保育社) 牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館) 原色日本蘚苔類図鑑(1972,保育社)
コケ類研究の手引き(2003,日本蘚苔類学会)

ギンゴケ Bryum argenteum Hedw.


グリーン内に小形で白緑色の密なマットをつくる。

葉の上半分の細胞に葉緑体がなくて透明なのが本種の特徴で、銀色に見える。

雌雄異株。蒴(さく)は細くて赤みを帯びた蒴(さく)柄から下垂する。(11月撮影)

茎は直立し、ほとんど枝分かれせず、細くて、高さ5~10mm。

葉は覆瓦状につき、広い卵形で深く凹み、長さ0.5~1mm。葉腋に無性芽ができ、容易に剥がれ落ちる。

先端は短く尖る。葉縁に舷げんはなく全辺。中肋は葉頂より下で終わる。葉身細胞は長いひし形から六角形。


ハイゴケ Hypnum plumaeforme Wils.


ゴルフ場のラフ、木の下などでよく見られる。
茎葉体は緑色から黄緑色で、茎は長く地表を這い、多数の枝を羽状に出す。雌雄異株であまり蒴(さく)をつけないが、蒴さくは湾曲し水平につく。

葉は密につき、乾くと著しく弓状に曲がって縮む。

枝を規則正しく羽状に分枝する。

葉は広い卵形の基部から披針形にのび、上部は弓状に曲がる。基部は心臓形。中肋は2叉(さ)して短い。



<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社)
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農業教育協会)
廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン)
牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館)
浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会)
大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅰ,Ⅱ(1967,保育社)など
大井次三郎著:日本植物誌 顕花篇(1978,至文堂)
林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
長田武正著:野草図鑑③すすきの巻き,④たんぽぽの巻(1984,保育社)
浅野貞夫著:浅野貞夫 日本植物生態図鑑(2005,全国農村教育協会)
清水建美編:日本の帰化植物(2003,平凡社)

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