ダラースポット病
目次
1ダラースポット病
| 病名 | ダラースポット病 |
|---|---|
| 英語名 | Dollar spot |
| 学名 | 寒地型芝草:Clarireedia jacksonii 暖地型芝草:Clarireedia monteithiana (旧称 Sclerotinia homoeocarpa) |
| 病原体 | 菌糸幅3.3μm~8.3μm,平均5.2μm |
2病原菌特徴
病徴
主にベントグリーンの周辺部に、直径1~2cm程度の黄緑色~淡褐色のスポットが点在して発生する。進行するとスポットは拡大・融合し、不整形で灰白色の大きなパッチへと変化する。刈高の高い場所では最大15cm程度に広がる場合もあり、被害が進行すれば地下部まで病原が侵入し、裸地化を引き起こす。
感染した葉は、はじめに色が薄くなり、少し黄ばんで見えるようになる。そのあと、葉が水にぬれたような状態になり、病気が進むと白っぽい色や麦わら色に変わっていく。葉には明るい色の斑点ができ、その周りは黄褐色や赤褐色のふちで囲まれる。この斑点は少しずつ広がり、最終的には葉全体に広がる。多くの場合、葉の先端から枯れ始めるのが特徴である。
発病初期にスポット縁の芝をサンプリングし、湿室に一晩保つと白色綿状の菌糸が確認されることがあるが、他病原(ピシウム菌等)との識別には顕微鏡観察が推奨される。
発生時期
ベントグラスにおいては晩春〜初夏、及び晩夏〜秋にかけて発生しやすいが、夏季の高温期でも活動は継続する。暖地型芝草の場合、梅雨時期に多発する。病原菌は夜間気温が10℃以上、日中が15〜32℃程度の条件下で活動を始める。発病は5~7日程度で葉先から始まり、進行すると地下部まで侵害される。秋期に発病した病斑は翌春まで回復せずに残ることがある。
発生条件
病原菌はClarireedia sp(旧称 Sclerotinia homoeocarpa)で、感染組織や葉面の菌糸塊(ストローマ)で生存する。主にベントグラスで深刻な被害がみられるが、コウライシバやノシバにも感染する。
窒素不足、根部の乾燥ストレス、サッチの蓄積、風通しの悪さ、過湿状態、低刈高、頻繁な潅水などが発病を助長する。特に排水性の高いサンドグリーンや日陰など、朝露が長く残る環境で好発する。
3防除
耕種的防除
- 施肥管理:窒素が不足すると発病が促進されるため、成長期には施用を行う。尿素の施用は発病抑制に効果があるとされるが、施用タイミングや散水により効果が左右される。
- 水管理:根部の一時的な乾燥も病勢を助長する。潅水は土壌水分に応じて実施し、夜間の潅水は避ける。
- 朝露の除去:早朝の芝刈り、ロープによる露払い、ブラッシング等による露や滲出液の除去は感染予防に有効。ただし、病斑がすでに存在する場合は病原の拡散に注意。
- サッチ管理と通気性の確保:過剰なサッチは病原菌の温床となるため、定期的なバーチカル、エアレーション、目砂施用で物理的管理を徹底する。
薬剤防除
- 予防的散布:夜間の気温が10℃を超えるようになる晩春から、発病前の段階で薬剤を散布することで効果が高い。本病に続いて炭疽病、葉腐病(ブラウンパッチ)、赤焼病やピシウム病が発生してくるので、これらに有効な混合剤を用いるとよい。
- 治療的散布:発病初期(スポット出現直後)には局所的なスポット散布でも対応可能だが、激発期や広範囲への感染が疑われる場合は全面散布が必要となる。
- ローテーション散布:同一系統薬剤の連続使用は避け、FRACコードを確認しながら異なる系統での散布を行う。効果が低下した場合には、薬剤感受性を疑い、薬剤を変更する。
- 時期を逃さない散布:地下部まで病原菌が侵入した場合、散布しても効果が現れにくい。発病初期での早期対応が重要である。
4参考写真
融合が見られるダラースポット病
発生初期の罹病葉上に蔓延する菌糸
発生初期の罹病葉上を分岐、伸張する菌糸
発生初期の罹病葉上を分岐、伸張する菌糸
発生初期~中期における菌糸の葉面から侵入
侵入菌糸と宿主組織の損傷状況
宿主内での増殖後にみられる本菌菌糸の宿主からの脱出
朝露とくもの巣状の本菌の菌糸塊
罹病部位にみられる菌叢
病気がかなり進行した部位にみられる菌叢
各種の病斑
ビニール袋の湿室内で形成させた菌糸塊
罹病部位にみられる菌叢
多発したダラースポット病に対する殺菌剤の治療効果